関連項目:連呼リアン ネトルピ ネトサポ

ネトウヨ

 ねとうよ 2011/12/20更新  

 ネトウヨとは、ネット上における一定の保守的言論傾向をひとくくりにして呼び習わしたもの。 蔑称。 当初は「ネット右翼」と呼ばれていたものが略されたもの。
 2004年ごろに「ネット右翼」という用語で登場し、05年ごろには「ネトウヨ」に変化した。 2011年には2ちゃんねるを席巻するほどに広範な使用が見られる。

 どのような人々を指してネトウヨというのかについては、その時々の社会的・政治的な潮流によるネット世論の変化もあって、一定しない。 すべての時期における要素を包括的に定義することはその成り立ちからいっても不可能と思われる。
 とりわけ2011年後半からは、連呼リアンの登場によってある程度ののくくりすら失われており、何でもありになっている。

「ネトウヨ」は変化する

 「ネトウヨとは何か」ということの前提として、「ネトウヨ」を自認する集団はいない、ということが重要である。 つまり、ネット上のある一定の思想的傾向を嫌う人々が、それらを「ネトウヨ」とレッテル貼りすることでネトウヨが生まれたということがいえる。
 したがって、「ネトウヨ」はその時々のネットにおける主流世論に対するアンチによる認識しだいで変化し、本質的に一定しないということがいえる。

 「ネトウヨ」を説明しようとした人々の記述を見ても、それぞれ切り取る側面が大きく異なっており、その主張の妥当性はともかく、「見る人次第」という印象を受ける。 例えば、Wikipediaの「ネット右翼」の項目には以下のようにある。

デジタル大辞泉の解説のように、保守的、国粋主義的な意見を発表する人々をネット右翼としているものがあれば、
ニューヨークタイムズのように、自分たちの生活状況への落胆を外国人排斥へと繋げている青年をネット右翼と捉えているメディアもある。(中略)
朝日新聞では、自分と相容れない意見にコメントを繰り返し書き込む人をネット右翼とし、彼らの意見が概ね右翼的であるためそう呼ばれているのだとしている。
その一方で、このようにネット右翼を右派、左派といった枠組みで捉える言説についての反論もある。社会学者の北田暁大は、2ちゃんねる上などで観測される「ウヨ厨」の振る舞いについて、本来は彼らの嫌うマスコミなどへのアイロニカルなコミュニケーションだったものがやがて右翼的な発言をコミュニティ内で連鎖させること自体が目的化した形式主義的なもの(つながりの社会性)へと転化しており、発言内容自体の政治的な右/左の枠組みではその本質を捉えられないとしている。社会学者の鈴木謙介も北田の説を支持し、それらの振る舞いはネタを共有することが目的化しているのだと述べている。

時期による傾向はある

 一方で、ある時点に限定すればその時々の主流的傾向があるため、ネトウヨの要素は考察することが可能といえる。

 かつてのネトウヨは、程度の差はあるものの強い左派的な政策・言論に対するアンチテーゼ的な言論傾向かつ、強い嫌韓傾向を有する世論に与する人々、というようなものになる。 
 また、よく「自民党支持」とはいわれるが、例えば親中派であった福田総理が嫌われる一方で右派的傾向がある民主党前原氏への期待論が高まるといった時期があるなど、党派には全くこだわっておらず、むしろ政策・思想に対する評価が決定づけているというべきだろう。 この点でしばしば「ネトサポ」と同一とも言われるが、実際には必ずしも重ならないというべきだろう。
 なお、「ウヨ」とは言うものの、あくまで左派的な政策・言論に対するアンチテーゼであるため、旧来の右翼団体や国粋主義的思想、つまりガチな右翼とは基本的に隔絶した存在である。

 しかし現在は、連呼リアンの登場によって煽れるものはなんでもネトウヨ扱いされることになった。 先述のように「ネトウヨ」はアンチ側から呼び習わしたものなので、一定のくくりも失われ無制限に拡散してしまった、といえる。

①:04年ごろ~07年ごろ

 このころの「ネット右翼」は、傾向としては人権擁護法案・外国人参政権問題などに対する批判的な思想を持つ人々が、インターネットの普及を介して言論を共有したもので、左翼政党・左派マスコミに対するアンチテーゼが主体といえる。 同時に、隣接領域として「嫌韓」が生まれ、同一ではないが表裏の関係となった。

 このような思想的潮流の起こりは2002年ごろといわれる。 2002年というのはインターネットの普及が人口比で5割前後まで高まり、これら左翼的な思想・言論に対するアンチがネットによってつながりを生んだ時期でもある。
 このころ、政界においては人権擁護法案および外国人参政権という、左翼的な法案が需要な問題となっていた。 また、マスコミや知識人も朝日新聞に代表されるような左翼的思想が戦後の言論における主流として存在していた。
 その結果、政界やマスコミなどの左翼的な潮流に対するアンチが増加し、04年ごろになってこれらをマスコミ側が「ネット右翼」とレッテル貼りをして蔑視したことで「ネット右翼」が生まれた。

 また、このころはこれに加えて、日韓ワールドカップが開催に伴い韓国の日本との関係の実態が広く知られ 「嫌韓」という単語が登場するほどにアンチ韓国が盛り上がった時期でもある。 これと同時に、朝日新聞やTBSなどのマスコミは過度に韓国びいきであるということも認識が共有されるようになり、左翼的な潮流へのアンチはこの面でもアンチマスコミとなった。

②:07年ごろ~09年末 (07年参院選前~政権交代直後)

 この時期は、左派要素に対する警戒と批判が特に強まり、逆に嫌韓要素が退潮した。

 07年の参院選で民主党が躍進し、ねじれ国会となって政権交代が現実味を帯びると、ネット上では外国人参政権などを推進する民主党に対する警戒感が非常に強まった。 また、民主党の主張や国会戦術に対しては普通に考えれば大きな疑問符がつけられるべきところ、マスコミや知識人は「自民憎し」であまりに偏向した言論を行ったことから、マスコミに対するアンチが非常に強まった。 そのため、マスコミに叩かれた麻生総理に対する期待感が非常に強まった。
 これに対し、韓国については一時の韓流ドラマブームも去り、また大統領も稀代のお花畑となったこともあり、アンチというよりはネタ扱いとなって、嫌韓は退潮した。

③:2010年(鳩山政権・菅政権)

 政権交代を果たした民主党だったがすぐにgdgdであることが世間的にも浸透したのがこの時期で、このころからネット上におけるネトウヨ煽り・ネトウヨ連呼厨が非常に活発になる。 「ネトウヨ」というスレタイのスレはこの頃から急激に増加する。
 もっとも、このころは後の連呼リアンとは異なり、あくまでネトウヨはそれまでのものの域を逸脱したとはいえない。

 また、民主党がgdgdとなってネトウヨ層がアンチからネタ扱いに転換する反面、ウォン安を背景に韓国が経済的に伸長したことから再び嫌韓が強まっていった。

④:2011年上半期(フジデモまで)

 その前から再び伸長しつつあった嫌韓であったが、この時期に「フジテレビがあまりに韓流をゴリ押ししている」という批判から嫌韓意識が急激に高まり、極大化した。 

 この時期に「ネトウヨ」と呼ばれる人たちの意識には、政治的な意味は非常に小さくなり、実質的にはネトウヨ=嫌韓厨とすりかわったようにみえる。

 なお、フジテレビに対する嫌韓面からの批判は今にはじまったことではなく、度々炎上していた。 かつての炎上とは比較にならないほどにフジテレビの行動が酷いとみなされたということができる。

⑤:2011年下半期

 ここまでは、「ネトウヨ」の対象はあくまで2ちゃんねるの思想的な主流派という点で同じであって、要素の変化はその社会状況に因る思想の移り変わりによるものであった。

 これとは完全に異質になったのは2011年夏ごろからで、このころに「連呼リアン」と呼ばれるようになる連呼厨が増加。 彼らは煽れればなんでもいいといった風で、例えば外国人の日本に対する反応といったような明らかにネトウヨとは関係ない事象でもネトウヨ煽りのスレッドを立てるようになり、「何がネトウヨか」が拡散してしまっている。
 また、原発事故・TPP問題という重要な論点が浮上したが、これに対して連呼リアンの共通意識として「ネトウヨは原発推進・TPP推進」という典型が形作られ、煽りスレの要素になっている。 しかし、そもそもどちらも菅総理が推進していたように従来のネトウヨというところからは論理的必然性が無く、ますますネトウヨというものの定義が無くなってしまっている。 

 ただ、原発・TPPに強引に連関をみつけるとすれば、これらはいずれも社民党・民主党左派が強く否定しているものということができるのか・・・?

今後は・・・?

 現状はネトウヨ・連呼リアンの煽り合いという形が定着しているが、将来的にどうなるのかは社会情勢にもよるだろうし、なんとも言いがたい。 しかし、煽り合いは2ちゃんねるからは切り離せないものであり、潰れない限りは無くならないのでないだろうか。 意味合いとしては、今後もますますわけわかんないことになっていくのではないかと思うが・・・

 

資料

①:レッテル貼りの事例

 先述した「レッテル貼り」の例が以下の朝日新聞の記事。

 東京弁護士会に所属する小倉秀夫さん(37)のブログに寄せられるコメントの数は多い時でも日に20前後だった。それが昨年2月初め、10倍近くに急増した。  普段はIT関連について考えを掲載している。そこに他人のブログに攻撃コメントをしつこく投稿する行為をいさめる意見を載せた。その直後のことだった。  コメントの大半は批判だ。差出人の名前の欄は「Unknown」。匿名だった。「あなたは勘違いしている」「なぜ非を認めないのか」……  回答しないと「このまま逃げたらあなたの信頼性はゼロになりますよ」。反論すれば、再反論が殺到した。議論の場から離れることを一時も許さない「ネット右翼」だ。  数年前からネット上で使われ出した言葉だ。自分と相いれない考えに、投稿や書き込みを繰り返す人々を指す右翼的な考えに基づく意見がほとんどなので、そう呼ばれるようになった
 (原文:「萎縮の構図・4:炎上(朝日新聞2006年5月5日)」、はてなキーワードより引用)

 この記事と同じ現象を扱ったのが、産経新聞の以下の記事で、こちらは朝日新聞の省略した問題となった文面なども載っている。

  この問題に大きな火をつけたのは、朝日新聞の地方記者とのちに発覚する人物が開設していたブログだった。この記者はNHK報道政治介入問題を取り上げ、「政治家に検閲させるとは何ごとか」と書いた。読者から「検閲ではないのでは?」という疑問が寄せられると、いきなり「自分と意見が違うと『アカ』『サヨ』『プロ市民』とレッテルをはって議論をごまかす。こうやって人間の思考力って退化するんだな。人間から猿への逆ダーウィン退化論を実証できそう」と暴走。これに対して数百ものコメントが殺到、ブログは炎上して消滅した。
 さらにこの問題は、著名な弁護士である小倉秀夫氏のブログにも飛び火。小倉氏が「品位に欠くコメントを執拗に投入するのは民主主義の敵だ」などと書いたものだから、こちらも燃え上がり、結局四月末に閉鎖されてしまった。
 こうした現象を「組織的妨害」と決めつけるのは、市民運動系の人たち特有の謀略史観ではないだろうか。そうではなく、これまでマスコミで黙殺されてきた新保守論的な世論が、ネットという媒体を得て一気に表舞台へと噴出してきているというのが、実は「ネット右翼」の正体ではないかと思うのである。

(原文:2005年5月8日付産経新聞のコラム「断」、筆:ジャーナリスト佐々木俊尚氏、はてなキーワードより引用)

 産経も右寄りなので割り引くとしても、朝日新聞のような内容も笑っちゃうようなもので、特に「右翼」部分の考察はいいかげんも甚だしい。 朝日新聞のような書き方こそがまさに「ネット右翼」の起こりというべきではないだろうか。

②ネット右翼の定義

 

 「ネット右翼」という言葉がある。インターネットの掲示板やブログなどで、左翼的・反日的な発言をする者がいると、猛然と批判のコメントの嵐が降り注ぐ。こうした状況に閉口する左翼系の人たちが、「組織化されたネット右翼が集団で妨害行動をおこなっている」と抗議するようになったのが、この言葉の始まりである。
(原文:2005年5月8日付産経新聞のコラム「断」、筆:ジャーナリスト佐々木俊尚氏、はてなキーワードより引用)

  「若者の右傾化」を象徴する存在として近年、「ネット右翼」が注目されている。ネット上で、中国・韓国をけなしたり「左翼メディア」をちゃかしたりする人々だ。
 彼らは、北朝鮮や韓国、中国が日本の戦争責任を指摘するたびに猛反発し、朝日新聞などの「弱腰」で「進歩的な言説」を馬鹿にし合う
 確かに彼らは、愛国心に燃える右翼集団に見えなくもない。だが本質は、右翼というよりは「左翼嫌い」だ。より正確に言えば、「マスコミに流通する言葉が優等生的な言説ばかりであることにいらだっている」集団である。
 だから彼らが国家主義を目指していると考えると、認識を誤る。彼らの多くはメディアの言説が「左」に傾き過ぎていると感じ、バランスを取ろうと考えているのだ
(中略)彼らの多くは、そもそも右傾化を目指していたのではないからだ。

(原文:2006年5月19日付朝日新聞掲載のインタビュー記事、語り手:鈴木謙介氏、はてなキーワードより引用)

 

 


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