走ルンです

2011/10/08更新

 走るルンですとは、JR東日本の209系以後の電車を指す鉄オタによる蔑称。 ほぼ死語。

 1990年代に一世を風靡した使い捨てカメラ「写ルンです」を文字ったもの。 

民営化に基づく合理化が目的だったが

JR東日本209系電車(Wikipediから)

 1989年に国鉄の分割民営化により誕生したJR東日本がただちに直面した課題のひとつに、2,500両もあった国鉄以来の古くサービス面でも性能でも劣る通勤電車(そしてさらに1,000両もの中長距離用車両)をどうにかして、輸送力の改善と経営合理化を促進しなければならない、というものがあった。

 その一貫として次世代の通勤電車のあるべき姿を志向して開発したのが209系電車という車両である。 そのコンセプトは、国鉄型通勤電車の代名詞で209系が駆逐する対象である103系電車が堅固だが鈍重で古いというのを打ち破るのを目的にした、「重量半分、価格半分、寿命半分」であった。

 このコンセプトは民営化にあたって、製造コストの低減、省エネ・メンテナンスフリーによる維持費の低減、および早いサイクルの車両交換によるサービス向上・最新技術の適切な導入を目指したものであるが、鉄オタには「チープで、メンテナンスをせず、劣化が進んだ段階で使い捨てる車両」と受け入れられた。 実際に構造の簡易化は、熱線吸収ガラスを採用してカーテンを廃止する(そして夏は日差しが遮りきれず暑い)ことや、座席を簡素化して座面が硬くなったことなどなど、サービス面でも「劣化」とみなされるような形でいくつも表れたことが影響していると思われる。

 この「安く簡易な構造で使い捨て」のイメージから、バブル期から1990年代初期にかけて大ヒットした使い捨てカメラである「写ルンです」にひっかけて「走ルンです」と呼ばれるようになった。 一眼レフが当たり前の鉄オタには「写ルンです」など論外であったのと同様に、あまりにチープな車両があり得ないことが、この蔑称の定着に寄与したのかもしれない。

やっぱり走ルンですだった・・・

 209系は、ほどなくして外板の歪みや機器の不具合がしばしば報告されるようになる。 未だ他路線の車両置き換えも進行中であるために多少の運用の引き伸ばしが図られたものの、結局は当初の想定と相違ない運用期間で2010年までに京浜東北線からは引退した。 初期の車両は全て廃車となり、中期以降の経年劣化がまだ少ない車両は改造されて負荷が少ない房総ローカル線に転属している。

 国鉄型通勤電車の代表格である103系電車が大阪環状線などの大阪都市圏ではだましだまし30年以上もの間使われていることを考えれば、わずか10年ちょっとで廃車というのはかなり短い。

 鉄オタは「やっぱり走ルンですだった」と思いを馳せた。

走ルンですは関東の通勤電車の基本に

 209系電車はいろいろ微妙な電車ではあったが、重量では半分とはいかなかったが3分の2程度にまで軽くなり、消費電力は103系の半分以下を実現(ただし、国鉄の205系と比べると7割くらいらしいが)するなど、制作費・維持費の低減という初期目的は達成し、経営面でも貢献した。
 そのため、その設計思想は基本的には受け継がれ、改良やアレンジが加えられた車両群はJR東日本によって続々と関東の路線に投入されている。 横須賀線・総武快速線のE217系、総武線各駅停車や東海道線•湘南新宿ライン等のE231系など、首都圏の銀色の車両はほとんどが209系の系譜に連なる。

 もっとも、これらの車両は209系に比べると堅固さや安定性にも配慮されているのか、例えば209系と機器類は共通する兄弟車的な存在のE217系は機器類を更新してなお横須賀線・総武快速線で使用され続けることが決定している。 サービス面でもさすがにいろいろ苦情があったのか、たびたび改良が施されているのが見受けられる。
 結局、「走るルンです」をそのまま引き継いだのは、ローカル線において赤字削減を狙って投入した701系やE127系(蔑称は「走るプレハブ」)ぐらいのものかもしれない。 吹雪の中を走ると、ドアの隙間から雪が入りこんでドアに上下に積もるのはまさに走ルンです。

 「走ルンです」のネーミングも209系がマイナーな存在となり、後継車両からチープなイメージがなくなるのにともない、死語となりつつある。

走ルンですの意義

 結果として、209系はちょっとやりすぎであった。 しかし、「走ルンです」が平成期の鉄道業界に与えたインパクトは絶大なものがある。

 209系の示した方向性は、先述のように後のJR東日本の車両にも基本的に維持され、209系から派生した電車のグループはJR東日本の通勤電車の大半を占めるまでに至っている。
 また、メンテナンスフリーや省エネ、部品共通化による価格低減といった発想は景気低迷・人口減少時代に突入する中で関東私鉄各社にも強く影響を及ぼした。 車両メーカーや国土交通省もコスト削減を推進したこともあって、209系の登場は関東大手私鉄の全てに大なり小なり影響を及ぼしたといっていい。

 その点で、蔑称の「走ルンです」も通らざるを得ない道だったという風にも考えられる。 微妙な結果も後に残る成果と考えれば、なかなか熱いものがあるような・・・気がしませんか?

 


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