自炊

 じすい 2011/09/07更新

 自炊とは、購入した書籍を自ら裁断してスキャナーにかけ電子ファイル化する行為を指すインターネットスラング。 
 「自分で(内容を)吸い上げる」→「じすい」→「自炊」と変化した隠語。

概説

 手持ちの書籍や雑誌をPDFデータなどにすることで、PCなどで閲覧することを可能にする行為。 2000年代後半にはスキャナの低価格化や電子書籍リーダー・スマートフォンという手軽に持ち歩けるツールの普及により、重い書籍を持たなくてもいいという利便性からニーズが高まっている。 特に2010年前後には後掲のように自炊指南本がいくつも出るなど一般化しつつある。
 また、それでもスキャナと裁断機には通常数万円することもあって、書籍を持ち込み・送付すると裁断してデータにする「自炊代行業」なども増加している。

 この語の発祥は2000年代前半の2ちゃんねるのダウンロード板、ファイル共有ソフトに関するスレッドであるらしい。 この頃の「自炊」はゲームソフトをエミュレータで使用するために製品からデータを吸い出す行為を主に指していたようである。 発生の経緯はよく解らないが、ダウソ板開設の半年後にはWinMXが流行しているので、自分でデータを吸い上げることは違法にファイル共有ソフトで放流する前提であるために隠語としてこの言葉が発生したのかもしれない。
 また、それ以前から商業ソフトウェアの海賊版・違法コピー品を「Warez」(転じて「割れ」)と呼んでおり、こちらが他者からの購入・ダウンロードに拠っていたため、これと対比した可能性がある。

自炊の違法性

 自炊の違法性については、様々な側面があるために違法・適法行為が様々に入り乱れ、法が想定していないためどちらともいえないものまである。

 まず、自分で購入した書籍を自炊する分には、著作権法30条1項本文(著作権の目的となつている著作物(略)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(略)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる<注>)によって合法的に行うことができる。 もちろんファイル共有ソフトで頒布した場合はこれの適用外となり、複製権(21条)違反となる。
 また、自分で裁断した後の書籍を売却する行為も、中古売買が適法である以上は個人の範囲内であれば適法の可能性が高い。 買ったCDをコピーして中古で売るという古くから行われている行為は問題にされていない。 もっとも、あまりに大量のものとなると、自炊そのものが私的複製の範囲を逸脱する可能性はある。 

 対して、自炊代行業などについては見解がわかれている。 これについては、所有権やデータが移動するものではなく個人の自炊の代理にすぎない、として適法だという意見がある一方、代行業者に依頼する以上は「家庭内」には当たらないとして違法とする考えがある。 また、現状では違法とするだけの法規定も判例も存在しないが、同様に曖昧な状態であったものをも法解釈でかなり強引に解決した「カラオケ法理」(カラオケ店においては一見すると客が個人的に曲を利用しているように見えるが、機器を店が設置して金を取って利用させている以上は店が曲を利用しているとした)の例もあり、明確な規定が無くとも判例によって違法となる可能性が十分にある。

著作権者団体の反応

 自炊代行業に対しては著作権者団体が激しく反発しており、コミックスの奥付にわざわざ記載している会社もある。 しかし、日本の場合は著作権者団体がデータの違法共有を警戒して電子書籍の販売に非常に消極的で、たとえ電子書籍化してもデータのみにもかかわらず本を買うよりも高額になるなど、消費者のニーズに全く答えられていない姿勢が以前から消費者側から批判があり、著作権者団体のこのような反応にも反発が強くある。 その背景にはユーザー側にはJASRACを始めとした著作権者が「強欲」と見る向きが強いこともあると思われる。

代行業に関する個人的見解

 著作権が本質的には財産権として著作権者への適切な対価の支払によって著作権者を保護することが趣旨であることを考えると、代行業者は何ら財産的損害を与えておらず、代行業者を批難するのは的外れであるように思える。 根本的な問題はファイル共有ソフトへの放流など著作権者に財産的損害を与える行為なのだから、そのような放流を集中的に摘発することが最も必要なことである。 つまり、問題が放流など違法な複製の有無である以上は、自炊か代行業者の利用かということは関係がなく、代行業者を批難することは八つ当たりでしか無いような気がするのだ。 出版社が電子書籍に消極的なのも違法コピーが原因であって、この点は根を同じくしている。
 いずれにせよ、代行業は法の不備と消費者のニーズが産み出した過渡期のスキマ産業であって、今後近いうちに法改正または判例で自炊後の書籍の取り扱いも含めて自炊に関する大幅な規制があるのかもしれない。

 

 <注>

 1項1号は1項本文の例外として「自動複製機器」を使用した場合を適法としないとしているが、さらに附則5条の2によってスキャナ・コピー機の場合はこれを除外しているため、結局適用がなく合法のままとなる。


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